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本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
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Posted by まめやもり - mameyamori - 2007.03.15,Thu

 第三巻行きます。この三巻の(客観的な)売りはまちがいなく文庫の半分以上の頁を占める「エジプシャン・スタイル」でありましょう。バジルと共にエジプトに赴いたビクトリアが砂漠の真ん中で行方不明になってしまうこのお話、これ元々の単行本では一巻丸々だったのではないかな。砂漠の遊牧民族とビクトリアの交流の様子と、必死になってビクトリアを捜索するバジルの側を並行してフォーカスしながら、この時期の「大英帝国」のありかた----「本国人」すなわち英国人とその支配、ナショナリズムの独立運動、そして両者の双方から距離を取る誇り高い遊牧民族の三者----が描かれる中編。しかしまあバジルが必死になんのも無理ないわな。大事な友達ってのもそうだけど、この時期の英国の社会道徳を考えるに、ビクトリアになんかあったらバジルの社会生命終わってるんじゃないか。傍目から見れば、かりにも公爵夫人を正式な庇護者であるその夫から託されてるってことになるんじゃないのか?
 てなわけで『バジル氏の優雅な生活』全編通してもいちばん長いお話では?と思われるこの「エジプシャン・スタイル」だが、実はわたし特別好きってほどでもない。ユーモアタッチの漫画だってことで百歩譲っても、ビクトリアのたどる経緯があまりにも出来すぎ。楽天的で冒険心に溢れてればすべてがうまく運ぶんだったら、多分そもそも「本国」とエジプトの関係はここまでこじれてませんよ。まあこの漫画としてはこれ以外にやりようがないんだろうけど。
 でもエジプト駐在領事の描き方はなかなかだと思う。強権的な植民地支配の無理を痛感し、英国への地元民の反発に一定の理解を示し、「領事の仕事は略奪者に等しい」とまで言いながらも領事を続ける彼。
 「私は英国を裏切ったのかもしれない…しかしエジプト人でもありません」・・・このジレンマ。「バジルさん…エジプトはすでに五千年の歴史を生きてるんです 我々などここの人にくらべたらただの野蛮人にすぎない」。
 植民地国の歴史に「悠久の時」のイメージを付与しヨーロッパと区別する物言いは、それがたとい「褒め言葉」であっても大きな陥穽を孕んでいることはもうなんべんも言われ尽くされてきたことだけれど、でもこういう文脈で発されるとき、安易に一蹴できない重みがあるんでないかと(ほんのちょっとだけ)思った。

 さて、ではこの三巻で好きなエピソードはなんなのかというと、「写真屋」です。----小間使いのルイと一緒に初雪のロンドンを歩いていたバジルは、一人の大道芸人が地面に絵を描いているのを見かける。ところがどうもその人は、誰もその顔を見たことがないという下町の不可思議な写真家であるらしい、彼の撮る写真は真っ黒な闇の中にただボウと光が浮かび上がっているだけの、理解しがたいものだった----。聖書の世界に心を奪われた芸術家が、強迫神経症じみたホモ・フォビア社会の中で破滅していく様子が描かれたこのお話は、完成度高いと思います。「そのあと 雪が降った その雪がとけると もう道の上には 絵はなかった」という最後の言葉が、淡々としていながらも残酷。






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